目次
  1. 概要
  2. Giveで駆動する交換、経済、関係
  3. 特定多数
  4. 世界に対する手触り感
  5. ベルリンうわの空
  6. 写真

読書記録:『ゆっくり、いそげ』

概要

東京のJR中央線で乗降客数最下位の西国分寺駅で、2008年から「クルミドコーヒー」というカフェを経営している著者の本。

このカフェは食べログのカフェ部門のランキングで日本一になったこともあるらしく、Googleマップの評価もかなり高い。

本の内容は、著者が思う理想の経済の形を実際に店舗で実践してきた例を交えながら語るものとなっている。

経済というとマクロで無機質なシステムを想起するかもしれないが、そうではなく、終始人と人の間のなんらかの「交換」を射程に置いていて、なんというか実感の沸くものになっている。

Giveで駆動する交換、経済、関係

大手コンサル勤務時代やベンチャーキャピタリスト時代の経験も踏まえながら、現在の資本主義経済が抱える構造的な問題を指摘して、Giveを主体とする取引という第三の道を一貫して提示し続けている。

資本主義自体を否定しているわけでなく、構造的に零れ落ちてしまったものの中に尊く大事なものがあることを指摘し、それらを復権できるような補助的な機構の提案と実践例が提示される。

人はTakerとしての基質とGiverとの基質を両方持っており、従業員に対しても、お客さんに対しても、ひいては街、社会に対してもGiverとしての基質を刺激することで副産物のある交換ができるというのは個人の実感としても強くある。

ただお客さんとして来てくれた人という関係から音楽会が開かれたり、本が出版された例は、大きなシステムに受動的に適応しているだけでは絶対に発生し得ないイベントだと思う。

特定多数

これを実践するには特定少数でも不特定多数でもなく、特定多数(個人的には不特定多数との関係をわかりやすくするために特定中数と呼びたい)に対する関係を構築しないといけないという意見。

これには納得感があり、さらに現代では様々なところでこれが意識的にせよ無意識的にせよ組み込まれ始めていることを感じる。

特定多数とは要は、「その人に対する興味、関心、おもいやり」という文脈が付加価値となることでその他と差別化を図れるというところが肝にあると思うが、これは昨今の「推し」文化がドンピシャだと思う。少し前はオンラインサロンがこの性質を持っている。クラウドファンディングもそうだし、もっと一般に「コミュニティ」を作って経済を回すということのビジネス優位性は確かに2020年ごろのSNS空間でよく主張されていた気がする。

この特定多数というのは十分条件ではなく必要条件で、これを構築したうえで、Giveで駆動される取引を広げる必要があるというところが肝だと読み取った。

この本が出版されたのは2015年なので、先見の明があったように思う。

世界に対する手触り感

実際にクルミドコーヒーで行われた施策に共通して自分が感じたのは、大きなシステムのなかで、世界や経済に主体的に関わって生活するさま、「社会に対する手触り感」だった。

この手触り感というのは、自分が世界に主体的に関わっているということを実感することで養われる自己効力感、希望みたいなもの。社会に対する主体性を取り戻させてくれる。

ベルリンうわの空

この本を読んでいる時に強い既視感を感じたけど、『ベルリンうわの空』だった。

『ベルリンうわの空』は自分が好きな本で、これも世界に対する手触り感を強く感じて、他の作品にはなかなかない不思議な体験がある。

写真

今日8月8日は自分の4連休の最初の日。初めて訪れたクルミドコーヒーでおいしいご飯を食べた。

クルミドコーヒーで食べたご飯